大鹿村中央構造線博物館



【詳細解説】地形地質模型

目次

大鹿村地形地質模型の概要


大鹿村地域の、1万分の1のきわめて精密な立体地形地質模型です。10メートルの等高線で切り抜いた1mm厚のコルク板を積み重ねた、水平:垂直=1:1の地形模型を、地質のちがいで塗り分けました。


ボタンひとつで地質断面も見られます。


地形地質模型の範囲
(25万分の1地形模型の上に示しました。この模型もあります。)

大鹿村地形地質模型の注目ポイント!

傾きながら隆起している南アルプスブロック

いま私たちが見ている山脈や平野・盆地などの大地形は、新生代第四紀の250万年前ごろに始まった現在の日本列島の地殻変動による、隆起や沈降で造られています。

大鹿村の1万分の1地形地質模型を見ると、赤石山脈(南アルプス)も伊那山地も、南北方向の稜線の高さが揃っているように見えます。また、赤石山脈(南アルプス)も伊那山地も、東西方向の尾根が天竜川のある西に向かってなだらかに下っていることが分かるでしょう。

谷の侵食は、山が隆起することで始まりますから、谷を埋めてみると、隆起前の平原(準平原)だった面を復元できます。そうすると、赤石山脈から中央構造線沿いの谷をまたいで伊那山地へつづき、天竜川で終わる、一枚のベニヤ板を置いたような面がイメージできます。

これが250万年前に隆起が始まる前までに平坦に侵食されてできた準平原(じゅんへいげん)の面です。現在は、東が高く西の伊那谷に向かってだんだん低くなっています。これは、まっすぐに上昇するのではなく、東ほど速く、傾きながら隆起しているためです。このような隆起のしかたを「傾動隆起(けいどうりゅうき)」といいます。伊那山地-赤石山脈の傾動隆起しているブロックを「赤石傾動地塊」といっています。

中央構造線沿いの一直線の谷

大鹿村の地形地質模型で「中央構造線」ボタンを押してみると、中央構造線が南北に走っているのが分かります。

この一直線の深い谷は、おもに、伊那山地-赤石山脈ブロックの傾動隆起にともない、中央構造線の昔の活動でできた破砕帯が侵食されて作られていると考えられます。伊那山地-赤石山脈では、日本の中でも急速に隆起している地域であり、谷の掘り込みも深く、伊那山地の大西山と谷底の博物館の標高差は1000mもあります。


中央構造線沿いを侵食している青木川の谷。一直線の谷が画面左上部の地蔵峠を越えて九州へつづく。

なお、この地域の中央構造線には活断層としての再活動が読み取れますが、おもな動きは右横ずれです。谷を埋めて復元した準平原面(接峰面)の中央構造線の位置に段差が見られないことから、東西で地形の高低差を造るような上下方向のずれの成分はわずかだと考えられます。

中央構造線の両側で斜面の傾斜が違う!

中央構造線の西側(伊那山地側)は急な崖になっていて、山すそのほかには集落はありません。東側(赤石山脈側)は緩い斜面になっていて、高いところに古くからの集落があります。これは地質の違いを反映しています。

伊那山地側の花崗岩は堅く、切り立った崖になっています。赤石山脈側の結晶片岩や蛇紋岩は粘土化して地すべりを起こしやすく、緩い斜面になっています。

中央構造線断層面の傾き


断層面の走向と傾斜

断層面の向きは、走向(そうこう)と傾斜(けいしゃ)であらわします。断層面と水平面が交わる線の方向を、「走向」といいます。地質学では真北から東まわりに何度、または西回りに何度、というようにあらわします。断層面の角度は「傾斜」といいます。走向に直交する垂直な面で断層面を切ったときに、水平面を傾斜0°とし、垂直を90°とし、面が下がっている方位をつけて、あらわします。上の図だと、おおよそ、走向は北から30°西、傾斜は西へ70°ぐらいです。「N30°W,70°W」のように記します。

 
地質模型断面(左)、露頭面(右)

断層面の断面が見えています。断層面の傾斜の向きがおおまかに見えています。外帯の赤石山脈側に傾き下がっています。走向に直交する断面で見ていないので、正確な傾斜ではありません。

赤石山脈では、中央構造線は外帯側に70~80度で傾斜し、大鹿の鹿塩川や青木川をはじめ、中央構造線ぞいに流れる川は、内帯側を流れています。赤石傾動隆起の始まりのときに、中央構造線破砕帯の部分を侵食し始めた川が、隆起にともない真下に掘り下げ続けたために、川筋が内帯を流れるようになったと考えています。

紀伊半島や四国では、中央構造線は内帯側に傾斜し、中央構造線ぞいに流れる櫛田川・紀ノ川・吉野川は、外帯側を流れています。

構造線・断層

戸台構造線と仏像構造線


戸台構造線。三波川変成帯のみかぶ緑色岩体(左)と秩父帯(右)の境界断層。


仏像構造線。秩父帯(左)と四万十帯(右)の境界断層。

赤石山脈の信州側には、戸台構造線と仏像構造線もとおっています。戸台構造線と仏像構造線も、関東から九州・沖縄へつづく大断層です。戸台は伊那市長谷の地名、仏像は高知県土佐市の地名です。仏像構造線は、沖縄の本部(もとぶ)半島の付け根までたどれます。

戸台構造線と仏像構造線沿いにも、中央構造線ほどではありませんが、断層破砕帯にそって谷や沢ができています。

小渋断層


中央構造線から分岐した小渋断層沿いに、大河原から赤石岳(奥)へ一直線につづく谷。赤石岳山頂をとおり模型の左手前に続く溝は、模型の右側を下げて地質断面を見せるための切り口で、断層ではありません。


大西公園から赤石岳を望む

大河原の小渋川と青木川の合流点から、赤石岳に向かい、一直線に谷がつづいています。そのため小渋橋や大西公園から、正面に赤石岳が見えます。この谷は、中央構造線から分岐した小渋断層を、小渋川本流が侵食したものです。小渋断層は、外帯の四万十帯、秩父帯、三波川変成帯を切っています。

地質による地形の違いを詳しく見てみる!

花崗岩地帯は入り組んだ尾根上に集落や道路が発達


松川町生田の峠地区

伊那山地西斜面には、花崗岩地帯特有の地形が見られます。花崗岩は結晶粒が大きく、表面近くでは結晶の境目から風化してバラけていきます。長石と雲母は粘土化し、風化に強い石英の砂粒がまぶされたようになります。これを「マサ化」といいます。花崗岩の中でも、結晶粒が大きく粒径がそろったタイプがマサ化しやすいようです。生田花崗岩はマサ化しやすいタイプです。「マサ土」のサンプルは、2階の展示室にあります。

芯が堅い花崗岩は保水力が小さく、大雨に会うとマサ化した表層が崩れおちます。その結果、網の目のように小さな谷が発達します。生田地区では、残った小さな尾根の頂上に家が点在し、細い尾根の稜線をたどる道が集落を結んでいます。馬が通った大鹿への古道も尾根上の道です。県道(小渋ダム沿いの道ができる前の旧道)は、谷底に建設されています。

マイロナイトの急斜面と大崩壊


領家変成帯の中央構造線に近い部分は、マイロナイトになっています。


大西山麓の大崩壊。手前(見かけ上は下)の灰色部分がマイロナイト。奥(見かけ上は上)の赤っぽく風化した部分は花崗岩。

中央構造線沿いは、破砕帯が深く掘り下げられています。中央構造線の内帯側幅1000m程度の区間の伊那山地東斜面は、花崗岩や変成岩が白亜紀に地温が高い地下深部で引き延ばされたマイロナイトが分布しています。マイロナイト化した部分は、その西側(斜面を東から見ると、見かけ上は上側)の花崗岩よりも急傾斜になっています。


崩壊地岩盤の断面図

斜面が安定する(持ちこたえられる)角度は地質により異なります。マイロナイト化した花崗岩の石英は細粒緻密になっているためマサ化しません。そのためマサ化する花崗岩よりマイロナイトのほうが硬く、急傾斜になるまで崩れ落ちず、崩壊後に露出する岩盤の斜面も急傾斜になります。

三波川帯の地すべりと集落

 
地すべり跡地に立地する中峰・梨原・沢井集落(左)と上蔵集落

赤石山脈側の三波川変成帯の結晶片岩や蛇紋岩は粘土化しやすく、地すべり地帯になっています。そのため、山の中腹の高い場所にゆるい斜面ができています。

地すべり跡地は、背後の滑落崖から水が湧き、粘土質なため土地が肥え、南向きの斜面ならば平坦地より冬の太陽を受けやすく、川沿いの土石流やはんらんに会うことがないため、古代から集落が発達しました。


鹿塩の中心集落、梨原


大河原の中心集落、上蔵と鳥倉山斜面の滑落崖

中央構造線が作った地形

中央構造線断層鞍部

赤石山脈では川が内帯側をとおっているので、中央構造線は赤石山脈側の斜面をとおっています。赤石山脈から下ってくる枝尾根を中央構造線が横切るところでは、とくに弱い断層ガウジ(断層粘土)や断層角礫が侵食され、断層鞍部(だんそうあんぶ)という断層特有の地形が生じています

 
大鹿村居森山の断層鞍部と断層丘陵
左:南側から、右:北西側の国道152号下原から

断層変位地形

活断層とは、概ね200万年前以降~12万5000年前以降にできた地形面や地表付近の堆積層を食いちがわせている断層です。そのころから今と同じ力が日本列島に加わっていて、この先数10万年は大きく変わらないので、同じ向きの食いちがいが、これからもくりかえし生じると考えられます。

⇒活断層ってなに?

断層鞍部は侵食による地形です。最近の時代の動きがなくても断層鞍部はできます。その断層が、活断層かどうかはわかりません。活断層の判定には、最近の地形をずらしているかどうかに注目します。

中央構造線の大河原~水窪区間には、多くの断層鞍部地形に右横ずれが見られ、確実度1の活断層と考えられています。

⇒活断層としての中央構造線

 

横ずれ断層の右ずれと左ずれは、断層を挟んだ相手側がどちらに動くかで呼び分けます。この青木川に持社沢が合流する付近の地形は、断層が上図の「右横ずれ」に動き、手前側の断層丘陵が←の方向へ動き、川の出口をせき止めたため、川が新しい流路をショートカットし、昔の流路が干上がったと考えられます。

模型で見る地質境界面

断層面や地層面などの地質境界面が、起伏がある地表面にあらわれた線は、境界面の傾きにより、異なったみかけになります。逆に、地質図に描かれた地質境界線と等高線から、地層面や断層面の傾きを読み取れます。その関係は、立体地形地質模型で見ると、よく分かります。


地質境界面が水平なとき、地質図上の境界線は等高線と平行になる


地質境界面が垂直なとき、地質図上の境界線は起伏と関係なく直線になる