大鹿村中央構造線博物館



【詳細解説】大鹿産岩石標本

目次

大鹿産岩石断面研磨標本について

大鹿村内から、200点あまりの岩石を集め、切断・研磨し、展示しています。(アンモナイトの化石のみ隣の伊那市長谷よりお借りしています。)


展示室①を取り囲むように岩石標本が置かれています

赤いカーペットの上においてある岩石は、伊那山地・中央アルプス側の岩石青いカーペットの上に置いてある岩石は、赤石山脈側の岩石です。
カーペットの色分けは、中央構造線を表現してあります。
ただし、本当の中央構造線は、展示室よりも西側にあります。

大鹿村で見られる地質帯

南アルプス地域は、隆起と侵食が激しい地域のため、日本列島の骨組みとなる岩が、よく露出しています。

大鹿村では、領家変成帯、三波川変成帯、秩父帯、四万十帯の4列の地質帯を観察できます。実際の配列にあわせて岩石を展示しています。

西南日本の、中央構造線の日本海側を内帯、太平洋側を外帯といいます。

中央構造線を境に、内帯側の領家(りょうけ)変成帯と、外帯側の三波川(さんばがわ)変成帯が接しています。

日本列島の土台は「付加体」の岩石!

球の表面は固いプレートで覆われています。
プレートには海のプレート(海洋性プレート)と陸のプレート(大陸性プレート)の2種類があります。そのちがいは、プレートの表層部の地殻のちがいで、玄武岩質の海洋地殻が載っているプレートを海洋性、玄武岩質の下部地殻と花崗岩質の上部地殻でできた大陸地殻を載せているプレートを大陸性プレートといいます。大陸地殻は海洋地殻より軽いので、海洋性プレートと大陸性プレートが出会う境界では、海洋性プレートが大陸性プレートの下に沈み込みます。

海のプレートが陸のプレートの下に沈みこむときに、海のプレートの上に堆積したものや、海洋地殻そのものが剥ぎ取られ、大陸のへりにくっついて大陸の一部になったものを付加体といいます。

 

付加体を構成する岩石には、海洋地殻や海山を作っている玄武岩(緑色岩)、
遠洋の静かな環境でプランクトンの死骸が積もってできる石灰岩・チャート、
大陸に近いところで、大陸から流れてきた砂岩・泥岩などがあります。

 

約3億年前以降にアジア大陸のへりに成長した付加体が、日本列島の土台となりました。

中央構造線を挟んで両側の岩石は、どう違う?

内帯も外帯も、付加体が土台になっていることは変わりません。海のプレートが沈み込んでいる「沈み込み帯」では、内陸側に火山帯ができます。花崗岩は沈み込み帯のマグマ活動でできます。古い花崗岩のほとんどが内帯に分布しています。

大鹿村岩石標本の紹介

四万十帯(北帯)・秩父帯

  • 秩父帯は中生代ジュラ紀(2億年前~1億4500万年前)の付加体です。
  • 四万十帯(北帯)は、白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)の付加体です。
  • ここでは秩父帯と四万十帯(北帯)を合わせて、付加体を構成している岩石を紹介します。

青木川上流転石(秩父帯)
緑色岩

緑色岩は、もとは、中央海嶺や火山島をつくった玄武岩質の溶岩や、地下でゆっくり固まって海洋地殻をつくった斑れい岩です。海水や地下水と反応して水を含む変質鉱物が生じ、さらに弱い変成作用を受けて緑色を帯びています。

深海の海底に噴出した玄武岩の一部は、流れながら海水に触れた外縁部分が急冷されて薄皮のように固まって大きな饅頭のような「枕状溶岩」という形になるものがあります。枕状溶岩が急冷により砕け散って、付近の海底に堆積した「自破砕溶岩」もあります。


湯折れ沢(秩父帯)
石灰岩

石灰岩は、白~灰色の軟らかい岩石で、火山島のサンゴ礁や、石灰質の殻をつくるプランクトンの死骸が堆積してできたものです。

 


小渋川上流転石
チャート

チャートは、石英で殻を作る放散虫(ラジオラリア)の死骸が深い海底に堆積したものです。放散虫とは浮遊性の単細胞動物プランクトンです。

プランクトンには石灰質の殻を作るものもいますが、微小な石灰片は深さ4000メートル程度の水圧で溶けてしまうため、それより深い海底には放散虫の死骸だけが降り積もります。また、堆積速度はきわめて遅く、大陸から泥が流れ込む環境では泥にまぎれてしまうため、遠洋の深海底でなければできない岩石です。

チャートの成分はほとんど石英で、鉄より堅く、かなり下流まで流されても、削られて丸くならず、ゴツゴツした形をしています。無色透明の石英でできているため不純物がなければ透明感がある白い岩石です。


小渋川上流転石
赤色チャート

チャートは、不純物が混ざると色がつきやすく、酸化鉄が混じったものは赤色になり、とくに「赤色(せきしょく)チャート」と呼ばれています。赤色チャートは通称「赤石」と呼ばれ、赤石山脈の名前のもとになりました。

小渋川上流転石(四万十帯)

砂岩

大陸から流れ込み、深い海溝を埋めた砂と泥が混じり合って堆積したもの。浅い沖合いにたまった砂と泥が、大地震や大嵐で発生する海底土石流により、混じり合って深い海底に一気に再堆積しました。

次の海底土石流までは、泥だけがおだやかに堆積するため、砂岩と泥岩がくりかえし堆積した互層ができます。


小渋川上流七釜(四万十帯)
泥岩(粘板岩)

粘板岩は、泥岩が弱く変成したものです。

この粘板岩には、後の時代の変動で生じたキンク褶曲(比較的浅部の地圧が小さい場所で生じる、折り曲げたような小褶曲)が、たくさん見られます。


塩川上流(秩父帯)
メランジュ

さまざまな種類の岩石が複雑に混じり合った地質体を「メランジュ」といいます。メランジュとは「混ぜ合わす」という意味のフランス語です。

左の写真は、海溝に堆積した泥(黒)と火山灰(淡緑色)が混在する泥質メランジュですが、遠洋性のチャート(白)の破片も見られます。海溝に堆積した泥の層と火山灰の層が、沈み込みにともなう断層で剪断されるとともに、チャートの破片が混じりこんだと考えられます。

 

戸台層

  • 戸台層は、秩父帯の中に、付加体ではなく、細長い大陸プレートの破片が両側を断層で区切られて存在し、「戸台構造帯」と名付けられています。戸台構造帯の中には、白亜紀前期の1億2000万年前ごろに大陸プレート上の沖合の浅い海に堆積した礫岩、砂岩、泥岩などの地層が分布しています。秩父帯には関東から九州まで、このような大陸起源の地質体が点々と分布し、一部には古生代の花崗岩や化石を含む堆積岩が見られ、中生代の恐竜化石が見つかっている場所もありますが、どの大陸の破片がどのような変動でジュラ紀付加体に挟み込まれたのかは、まだよく分かっていません。
  • 大鹿村のお隣り、伊那市長谷の戸台層からアンモナイト化石や三角貝の化石などがみつかっており、「戸台の化石保存会」では、年に2回程度、戸台の化石観察会を行っています。化石の散逸を防ぐために、長谷公民館内の保存庫で保管しています。
  • 大鹿村では、残念ながら、化石は見つかっていないので、化石の展示標本は、伊那市からお借りして展示しています。

鹿塩川支流黒川
れき岩

花崗岩のれきを含んでいます。この花崗岩は、領家花崗岩ではなく、古生代のものである可能性があります。


伊那市長谷村戸台
アンモナイト化石

伊那市長谷の戸台層の泥岩を割ってみると、アンモナイトの化石が見つかります。

 

御荷鉾(みかぶ)緑色岩体

  • 三波川変成帯の一部に、ほとんど塊状の緑色岩からなる御荷鉾緑色岩体が関東から四国まで帯状に分布しています。これは、ジュラ紀の巨大な海底溶岩台地(海台)が付加したものと考えられています。
  • 御荷鉾緑色岩体は結晶片岩より変成度が低いのですが、最近になって三波川変成帯の結晶片岩のもとの岩石が白亜紀の付加体であることが明らかになってきたので、結晶片岩とは変成度だけでなく時代も異なるらしいとうことが分かってきました。
  • 「みかぶ」は、群馬県の御荷鉾(みかぼ)山に由来します。まちがって「みかぶ」と命名され、地質帯の呼称としては「みかぶ」が使われています。

鳥倉林道・夕立神
緑色岩(枕状溶岩)

緑色岩は、もとは、中央海嶺や火山島をつくった玄武岩質の溶岩や、地下でゆっくり固まって海洋地殻をつくった斑れい岩です。海水や地下水と反応して水を含む変質鉱物が生じ、さらに弱い変成作用を受けて緑色を帯びています。

深海の海底に噴出した玄武岩質の溶岩の一部には、急冷により砕け散った砂粒大の破片が付近の海底に堆積したものもあります。


鳶ヶ巣
変質はんれい岩

マグマが地下でゆっくり固まって海洋地殻をつくった斑れい岩が、まだ熱いうちに、海水や地下水と反応して変質したものです。


奥沢井
かんらん岩

巨大海台を造った大規模なマグマ溜りの中で、重い鉱物結晶が沈殿してできたものです。

マントルのかんらん岩とは異なり、黒っぽい色をしています。風化すると鉄さびのような赤茶色を帯びます。輝石を少し含むものは青味がかっています。


鳶ヶ巣
風化したかんらん岩

表面が風化して、鉄さびのような赤茶色を帯びます。


入沢井
蛇紋岩

かんらん岩が水と反応して変質したものは、水を含む蛇紋石という鉱物が生じ、黄緑~濃緑色で光沢がある蛇紋岩に変わっています。

 

三波川変成帯

  • 三波川変成帯の御荷鉾緑色岩体以外の結晶片岩は、もともとは白亜紀の付加体らしいことが分かってきました。付加した後も沈み込む海洋プレートに引きずられて深さ15km~30kmまで引きずり込まれ、深いわりに低い温度で変成作用を受け、薄い板を重ねたような結晶片岩になっています。

鹿塩川支流黒川
緑色片岩

緑色岩(変質した玄武岩やその破片)を原岩とする結晶片岩です。玄武岩の成分から「苦鉄質片岩」「塩基性片岩」とも呼ばれます。


鹿塩川転石
石灰質片岩

石灰岩を原岩とする結晶片岩。この標本では、緑色片岩との互層になっています。


鹿塩川転石
石英片岩

チャートを原岩とする結晶片岩。


鹿塩川支流黒川
赤鉄石英片岩

赤色チャートを原岩とする結晶片岩。マンガンを含むピンク色の石英片岩は「紅簾(こうれん)片岩」といいます。


塩川転石
砂質片岩

砂岩を原岩とする結晶片岩。


分杭峠
泥質片岩

泥岩を原岩とする結晶片岩。「黒色片岩」ともいいます。変成鉱物として微細な白雲母が生じているものは光沢があり「絹雲母片岩」ともいいます。


分杭峠
点紋緑色片岩

変成度が高い結晶片岩には、肉眼で見えるほど成長した曹長石(ナトリウム長石)が見られます。このような結晶片岩を「点紋片岩」といいます。

 

領家変成帯

  • 領家変成帯の変成岩は、もともとジュラ紀の付加体があったところに、白亜紀に大量のマグマが上昇し、浅い割に高い温度で変成作用を受け、高温低圧型の変成岩になりました。また、上昇してきたマグマは、ゆっくりと冷え固まって、花崗岩などの深成岩になりました。その後の隆起と侵食で、変成岩や花崗岩などが地表にあらわれました。
  • 領家変成帯に分布する深成岩には、花崗岩のほかに、鉄やマグネシウムが多いマグマ(苦鉄質マグマ) から固まった深成岩も少し見られます。大鹿村では安康南沢に苦鉄質岩体があります。小規模なものは桶谷にも露出しています。
  • 領家変成帯の、中央構造線から1000メートル付近までの岩石は、白亜紀末に、地温が高い断層深部で引き延ばされるように変形したマイロナイトになりました。マイロナイトは、もとの岩石により、見かけが大きく異なっています。
  • 大鹿村の領家変成帯の岩石は中央構造線による変形を受けているものが多く、変形を受けていないものは中央構造線から離れた伊那山地の稜線や小渋ダム付近に分布します。いくつかの岩石については参考展示している伊那市長谷・高遠産の標本を紹介します。

 


伊那市高遠三峰川河床
砂泥質片麻岩

砂泥質の堆積岩が変成した片麻岩。赤銅色~金色にキラキラ光って見えるのは変成作用で生じた黒雲母。薄片の顕微鏡観察では、菫青石(きんせいせき)が生じていることが分かります。一部に白色のメルト(溶融物)が脈状に入り込んでいます。全体に細かく褶曲しています。


安康南沢転石
珪質変成岩(石英片岩)

チャートが変成した変成岩。もともとほとんど石英でできていて層状のチャートは、変成作用を受けてもあまり見かけが変わらず、領家変成帯のものも「石英片岩」と呼ばれます。


小渋ダム湖上部
ミグマタイト

変成岩と火成岩が混在している岩石を「ミグマタイト」といいます。マグマの貫入を受けた片麻岩は変形しています。花崗岩の結晶は、比較的速く冷えたため、深成岩としては細粒です。


伊那市長谷美和ダム西岸付近
縞状花崗閃緑岩(非持タイプ)

「花崗閃緑岩(やや有色鉱物が多い花崗岩類)」は花崗岩類の細かい分類のひとつです。この岩石は、有色鉱物が多い部分と少ない部分が縞状をなし、全体としては花崗閃緑岩の組成になっているように見えます。

領家花崗岩類(領家変成帯に分布する花崗岩類)は、多くの岩体群に区分され、マグマの貫入・固結の順序と年代がかなり良く分かっています。岩体にはそれぞれ名前がつけられています。これは最古期の非持(ひじ)タイプのものです。非持タイプのほとんどは細かい分類では「トーナル岩」(カリ長石をほとんど含まない花崗岩類)ですが、花崗閃緑岩組成の部分もあります。非持タイプには塊状のものと縞状のものがあります。なぜ縞状のものができたのかについては、まだ未解決です。

大鹿では非持タイプの花崗岩類は、中央構造線沿いに分布しているため、断層深部の変形を強く受けてマイロナイトになっています。これは長谷村で採取した標本です。


落合(伊那山地からの転石)
眼球状花崗閃緑岩(南向・天竜峡タイプ)

無色鉱物が集まった集合体が、大きな白い目玉のように見えることが特徴的な花崗閃緑岩です。南向(みなかた)・天竜峡タイプの花崗岩は、非持タイプに続いて貫入した領家古期花崗岩類です。マグマが流動しながら固結したと考えられます。


落合(伊那山地からの転石)
眼球状花崗岩(南向・天竜峡タイプ?)

前のものと同じ岩体の、有色鉱物が少ない部分です。


岩洞
花崗閃緑岩(生田タイプ)

大鹿から松川町生田へ上がる旧道沿いで採取した標本。
生田(いくた)タイプのうち、有色鉱物が多いタイプです。生田タイプは、昔の区分方法では「古期」に入れられていましたが、新しい区分方法では「新期」に入れられています。

領家花崗岩類の新旧は、かつては同時代の噴出岩である「濃飛流紋岩(のうひりゅうもんがん)」をものさしにして、その噴出時期の前か後かで分けていました。しかし濃飛流紋岩類の噴出は長い間にまたがっていたことが分かり、時代を決めるものさしとして役立たないことが分かりました。そこで、領家変成岩をものさしにして、領家変成岩が深部で変成作用を受けていた時期に貫入した花崗岩類を「古期」、領家変成岩が広域変成作用を受けない浅部へ上昇してから貫入し、接触変成作用を与えている花崗岩類を「新期」に区分しています。


安康南沢
コートランド岩

角閃石かんらん岩の一種。超苦鉄質岩。領家変成帯の中に点在する苦鉄質深成岩体に含まれる超苦鉄質岩。角閃石の大きな結晶が、かんらん石や輝石を包み込んでいます。この標本の研磨面に光を当てると、直径数センチメートルの角閃石結晶が光ります。


安康南沢
斜長岩または角閃石斑れい岩

安康南沢苦鉄質岩体の斑れい岩類の一種です。先に晶出した白い斜長石結晶のすきまを、後から晶出した黒い角閃石が埋めています。斑れい岩類の命名規約では、無色の斜長石(カルシウムとナトリウムに富む長石)が体積で90%以上ふくまれるものを「斜長岩」といいます。この岩石はどうでしょうか。斜長石が90%以下なら「角閃石斑れい岩」です。岩石の呼び方は、基本的な岩石名の前にその岩石を特徴づける鉱物名を含有量が少ない順に示します。斑れい岩には斜長石がふつうに含まれているので、あえて「角閃石斜長石斑れい岩」とは言いません。


安康南沢
 角閃石はんれい岩

長柱状の角閃石結晶が先に晶出し、無色鉱物が間を埋めて晶出しています。


桶谷
変輝緑岩

領家花崗岩にともなって、細粒の苦鉄質岩が見られます。これらは「輝緑岩(苦鉄質半深成岩)を原岩とする変成岩」を意味する「変輝緑岩」と呼びならされてきましたが、ほんとうの素性は不明です。


北川
花崗閃緑岩を原岩とするマイロナイト

もとの岩石が花崗岩の場合は、花崗岩の長石や角閃石の結晶が大きいまま斑点のように残ったマイロナイトができます。この、もとの岩石から残った大きめの結晶粒を「ポーフィロクラスト」といいます。


小峠沢転石
泥質片麻岩を原岩とするマイロナイト

大粒の結晶をもたない変成岩がもとの岩石の場合は、ほとんどポーフィロクラストをもたないマイロナイトになります。