大鹿村中央構造線博物館



断層岩と地震

地殻強度断面と断層岩(図1)

地震は、低温の場所で発生する。広域・長期の圧縮による弾性変形により岩盤に蓄えられていた歪みエネルギーが、地震時には断層面ぞいの高速の脆性剪断をともない一気に放出される。この脆性破壊領域では、深度が増すにしたがい、圧力の増加とともに割れ目が閉じたり断層面がより強く押し付けられて、岩石の強度が増大する。

一方、深部の高温の領域では、通常はきわめてゆっくりとした塑性流動が進行していていると考えられる。ゆっくりとした塑性流動では地震は起こらない。塑性流動は温度がある値に達すると急激に起こりやすくなり、岩石の強度は急激に減少する。

したがって脆性破壊領域と塑性流動領域の境界で、地殻の強度は最も大きいと考えられる。図1(a)は、1970年代後半に提唱された、地下深部を脆性破壊が卓越する領域と塑性流動が卓越する領域に2分したモデルである。脆性破壊領域における深部に向かっての強度の増加は摩擦法則、塑性流動領域における浅部に向かっての強度の増加は流動則によって描かれている。地殻やマントルを構成する岩石の流動則は、高温高圧下の変形実験によって得られた主要造岩鉱物の流動則から推定されている。カタクレーサイトは脆性破壊の領域で、マイロナイトは塑性流動の領域で形成されると考える。地震は脆性破壊が卓越する領域で発生すると考える。

図1(b)は,1980年代に提唱されたモデルで、高温高圧下での岩石破壊実験により脆性破壊領域と塑性流動領域に中間領域があることが明らかになった。現実の岩石としては,延性(のび)変形によるS面と、剪断(ずれ)変形によるC面(あるいはSs面)を合わせ持つS-Cマイロナイトが、この領域で形成されたものと考えられる(狭義のS-Cマイロナイトは,前節『剪断センスの判定』に記した複合面構造の“S面とC面が発達したマイロナイト”のことを指すが、広義には“S面とSs面が発達したマイロナイト”も含めて「S-Cマイロナイト」と呼ばれる)。

現在の上部地殻の断層でも、カタクレーサイトが形成されている領域とマイロナイトが形成されている領域の中間領域が、断層面の強度が最も大きいので、大地震の発生域になると予想される。近年、地震性高速剪断の直接の証拠であるシュードタキライトがマイロナイトに伴って発見されている。マイロナイト中に形成されたシュードタキライトが再びマイロナイト化している例から、非地震性の塑性流動と地震性の高速脆性剪断とがくりかえされたことが分かる。何がきっかけで、非地震性から地震性の挙動へ変化するのだろうか。

地震発生の場所(図2)

1)日本列島内陸の上部地殻の地震

図2は,図1(b)などの結果をもとに描かれた、現在の東北日本の強度断面である。岩石の強度が大きい部分を濃いアミ線で示している。この強度が大きいと推定される領域と、現実の地震発生域とは、よく一致している,日本列島内陸の上部地殻では、地温は深度が1km増すごとに20~30度上昇する。深さが20kmでは温度は500℃に達し、それ以下の深度では地震はほとんど発生しない。

2)沈み込んだ海洋プレート(スラブ)内の地震

図の右から左下へ沈み込む太平洋プレート(図のタテ線の領域)も低温で,地震が発生する。沈み込んだ海洋プレートはスラブと呼ばれる。スラブは沈み込んでもなかなか暖まらず、最深700kmまで地震が発生する。かみ合う前の海洋プレート内部でも地震が発生する。

3)日本列島のプレートと大陸プレートがかみ合っているプレート境界で発生する地震

図のA~Bの区間のプレート境界面で地震が発生する。海溝軸T~Aでは,堆積物中の水分のため塑性変形しやすい。A付近で,脱水のためかみ合いが強くなる。A付近から上方へ分岐し付加体を切る破線で示された断層は“枝分かれ断層”と呼ばれ、海底に達して前縁隆起帯~前弧海盆系の海底地形を造る。

プレート境界Cより深いプレート境界面では、陸側の温度が高く、かみ合いは弱くなる。プレートかみ合い部分A~Cの上の陸側の地殻やマントル内では、20km以深でも温度が低く地震が発生する。

図3は,上部地殻の地震の原動力として、上部地殻の歪みだけでなく、下部地殻の塑性流動も関わるのではないかという考えを示したものである。

地震学的には上部地殻は地震発生領域、下部地殻は地震が発生しない領域として分けられる。地質学的には上部地殻は花崗岩質、下部地殻ははんれい岩質として分けられる。これらは必ずしも一致しないが、ここでは、上部地殻はカタクレーサイトが形成される脆性破壊領域、下部地殻はマイロナイトが形成される塑性流動領域に相当すると考えられる。その境界部分が(大)地震発生に関わっているとすれば、マイロナイトをつくる低速の変形が高速の剪断へ転化する現象の意味は大きい。

 

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