大鹿村中央構造線博物館



マグニチュード9級の「南海トラフ巨大地震」

西南日本でも1000年に1度程度の間隔で、平均150年間隔のマグニチュード8級の東海・南海地震より大きな津波をともなう地震が発生したことが分かってきました。2012年に中央防災会議が作ったマグニチュード9級の「南海トラフ巨大地震」の震源断層モデルと、予想される震度分布、津波の高さの予想を紹介します。

観測で得られた、沈みこんだフィリピン海プレート上面の深さと固着域

西南日本の下に沈みこんだフィリピン海プレートは、日本海の海岸付近では100km以上の深さに達しています。その位置はフィリピン海プレートの中を伝わってくる地震波の速さの解析などで、以前より明らかになっています。上の図は、2011年に南海トラフ沿い巨大地震の防災対策のために採用したモデル。黒線はプレート境界の等深線です。

また、深部低周波地震という弱い地震を観測できるようになりました。その発生帯の深さはおよそ30km~35kmです。深部低周波地震は、沈み込んでいるフィリピン海プレートの海洋地殻の鉱物に含まれていた水の一部が放出され、プレート境界面が滑りやすくなるためだと考えられています。したがって、深部低周波地震の発生帯の上限まではプレートどうしがしっかりと固着し、下限から先では、プレートどうしの固着が失われてズルズルと滑りこんでいると考えられます。

プレートどうしが固着している領域が、地震発生時には高速でずれ動いて地震波を発生する領域になります。巨大地震モデルでは深部低周波地震発生帯の下限まで震源断層面にしています。その深さは約35kmです。マグニチュード8級の東海地震では、震源断層面の下限は深さ30kmです。その分、マグニチュード9級の方がマグニチュード8級より震源断層の幅が広くなっています。

強震断層モデル

この南海トラフ巨大地震の検討では、地震波の発生を見積もる断層モデルを「強震断層モデル」と呼んでいます。

震源域の深い側の境界は、フィリピン海プレートの上面の深さが35kmになっている付近で、甲府盆地南部~大鹿村~飯田市の天竜川付近~阿南町~豊田~名古屋港付近~四日市~亀山~有田~徳島~松山~宮崎市のラインです。

断層全体を4つの部分(セグメント)に分けています。震源域の西側を「日向灘域」まで広げています。新しい区分の「東海域」は、今までの「想定東海地震震源域」とは異なっています。歴史上の「東海地震」との整合性は良くなりました。

海溝付近は水を含んだ軟らかい堆積物があるため、プレート境界面はほとんど固着していません。このモデルでは海溝から深さ10kmまでのプレート境界面は固着しておらず、ずれ動いても地震波を発生しないとみなしています。

断層の両側の岩盤にかかっている力(応力)は、断層がずれ動くことで低下しますが、その量を東北地方太平洋沖地震と同じに設定しています。応力の低下分がエネルギーに変わります。世界の地震の統計から、それ以上の応力低下が生じる確率は10%とみなしています。したがって、このモデルを上回るエネルギーが発生する確率が10%ほど残っています。

じっさいには断層面の中で、とくに強い地震波を発生する領域があります。その領域を「アスペリティー」と呼ぶことが多いのですが、このモデルでは「強震断層域」と呼んでいます。そして断層全体から放出されるエネルギーを「強震断層域」に多く、そのほかの領域に少なく分配しています。強震断層域の配置はほぼ等間隔に設定しています。

プレート境界面だけでなく、プレート境界面から立ち上がって地表付近に達する「分岐断層」からも地震波が発生する可能性がありますが、このモデルには取り入れていません。

震源断層モデルと地表の震度の予測

「強震断層モデル」から発生させた地震波により、いったん工学的基盤と呼ばれる一定の固さの仮想的な地盤での各地の揺れの強さを求めます。そこから表層地盤の性質による増幅率を掛けて、それぞれの場所の地面の揺れの強さ(震度)を求めています。

このように、非常に広い範囲で強い揺れが予想されています。中央防災会議報告の巻末資料には、自治体ごとの最大震度の表があります。

南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)平成24年3月31日巻末資料

津波断層モデル

2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)では、固着が弱い海溝付近のプレート境界面が大きくすべりました。その結果、大きな海底地殻変動が生じて、大きな津波が発生しました。

そこで、南海トラフ地震の予測でも、揺れの強さを予測する「強震断層モデル」とは別に、地殻変動を生じる断層面として、海溝(トラフ)まで広がる「津波断層モデル」を作っています。断層全体でのすべり量の分配は、フィリピン海プレートに沈み込む速度のちがいに比例させています(右下の図)。

このモデルを超えるすべりが生じる確率は3%としています。

東北地方太平洋沖地震の経験から、とくにすべり量が大きい領域が一部に生じるモデルを11とおり作っています。左上の5枚の図は「駿河湾~紀伊半島沖に大すべり域を設定したケース」です。

各地の津波の高さ

それぞれの地点での、11ケースの最高値を示した図です。

太平洋岸では、2003年の想定東海・東南海・南海地震モデルによる予測の2倍以上の高さになっています。

東京、名古屋、大阪、高知、浜岡原子力発電所付近の浸水分布図も公表されています。

関連リンク

 

2012年4月20日作成
2018年11月24日リンク先修正

2019年4月17日再修正

⇒「地震」TOPに戻る