大鹿村中央構造線博物館



断層岩の分類

地下の深さによってできる断層岩の種類が違う!

断層の地下深いところでは、圧力が高く、地温も高いため、非地震性のゆっくりとした延性変形によってある程度の幅をもった範囲で岩石が変形していきます。

一方、地表近くでは、ある程度歪がたまって耐え切れなくなった時点で、狭い範囲で一気に脆性破壊を起こします。このとき、地震が発生します。

断層ガウジ・断層角れき

温度も圧力も低い最浅部で形成されます。断層運動に伴う破砕によって生じた細粒・未固結の断層内物質。破砕岩片の割合が30%未満のものを断層ガウジと呼び、30%以上のものを断層角れきと呼ぶ。熱水変質を伴って粘土鉱物を生じていることが多く、断層粘土と呼ばれることもある。


半固結状の断層ガウジを樹脂で固めて切断研磨した標本

カタクレーサイト

カタクレーサイトとは?

比較的低温高圧条件の地殻浅所(5~10km)において、脆性破壊を生じた断層岩で、固結したもの。機械的な変形機構で特徴づけられる。破砕岩ともいう。

カタクレーサイトの分類

破砕岩片と粉砕基質の量比により、プロトカタクレーサイト、カタクレーサイト、ウルトラカタクレーサイトに細分される。


カタクレーサイトの薄片製作用チップの一次研磨面
破断面が密集した部分が見られるが、粉砕には至っていない。

マイロナイトがカタクレーサイト化!?

赤石山脈・伊那山地地域の中央構造線の領家帯側250m以内には、上部地殻深部で形成されたマイロナイトが、浅所に上昇後に脆性破砕を重複して受けた、マイロナイトを原岩とするカタクレーサイトが分布している。


マイロナイトを原岩とするカタクレーサイト
長さ数cmの数多くの剪断面によって、マイロナイトの面構造が失われている。

マイロナイト

マイロナイトとは?

高温の断層深部で塑性流動を受けた断層岩。マイロナイトの変形は、原岩の鉱物の動的再結晶作用(剪断応力下における再結晶)による多結晶化および細粒化で特徴づけられる。マイロナイトの変形は,機械的な破砕によらない。岩石としてのマイロナイトは、原岩の主要造岩鉱物の一種以上に多結晶化が生じていることで定義される。

 ポーフィロクラストと細粒基質

マイロナイトには、丸みを帯びた外形の斑晶様の鉱物が、細粒基質上に点在しているような見かけを呈するものが多い。この斑晶様のものはポーフィロクラストと呼ばれ,原岩の構成鉱物のうち、多結晶化しにくいものが細粒化をまぬがれて残存したものである。

マイロナイトの変形が始まる温度条件は、方解石→石英および雲母類→カリ長石→斜長石→角閃石→かんらん石→輝石の順に高くなる。原岩が、ある温度条件の場で剪断を受けた時、その温度で多結晶化しやすい鉱物は(細粒)基質を形成する。一方、その温度では多結晶化しにくい鉱物は、(原岩での粒径が大きい場合は)ポーフィロクラストとして残存する。ただし、もともと細粒の鉱物のみからなる岩石が原岩のマイロナイトでは、ポーフィロクラストは見られない。

中央構造線の領家帯側に分布する花崗岩質岩を原岩とするマイロナイトでは、石英は多結晶化し、細粒化した黒雲母や長石類とともに細粒基質を構成している。ポーフィロクラストとして残っているのは角閃石・斜長石・カリ長石である。


N01ポーフィロクラスティック・マイロナイトの切断研磨面
暗色の基質は、石英・長石・黒雲母が多結晶細粒化した部分。
白色の斑点は、原岩の斜長石やカリ長石が多結晶化をまぬがれて残存した部分。

なお、もっと地下深く、高温環境下で形成された北海道日高のはんれい岩源マイロナイトや、幌満かんらん岩源マイロナイトは、長石も細粒化しており、輝石やスピネルがポーフィロクラストを作っている。

プレッシャーシャドゥ

ポーフィロクラストには、「尾」を引き出したような見かけのプレッシャーシャドゥ が発達していることが多い。プレッシャーシャドゥはポーフィロクラストの一部が破砕されて引き伸ばされたものではない。ポーフィロクラストの存在のために、ポーフィロクラストの周囲の特定の方向に剪断応力が弱い部分が生じ、剪断応力が弱い部分に粒径が相対的に大きい再結晶鉱物が生じて形成される。ポーフィロクラストとプレッシャーシャドゥの構成鉱物は必ずしも同じではない。たとえば斜長石ポーフィロクラストのプレッシャーシャドゥの構成鉱物は、カリ長石と石英で、これらを構成する物質は、細粒基質部分から粒界移動などにより移動したと考えられる。プレッシャーシャドゥの形やポーフィロクラストに対する位置関係は、剪断のセンス(ずれの相対的な向き)を判定する指標のひとつになる。


白色のポーフィロクラストから伸びる尾のような部分がプレッシャーシャドゥ


ポーフィロクラスティック・マイロナイトの偏光顕微鏡写真(下方ポーラー)
ポーフィロクラストの構成鉱物は、斜長石(PL)
プレッシャーシャドゥの構成鉱物は、カリ長石(Kf)と石英(Qz)

フラクションバンディング

花崗岩質岩を原岩とするマイロナイトには、多結晶化した石英集合体からなるリボンが見られる。また、伸長したプレッシャーシャドウも、カリ長石と石英からなるリボンを形成する。これらは肉眼では幅1mm以下で長さ数cm程度の帯状の白色のリボンとして認識される。とりわけカリ長石ポーフィロクラストは、縁辺部で基質の斜長石と反応してミルメカイトを生成して物質移動しやすく、斜長石ポーフィロクラストよりもプレッシャーシャドゥの発達が良い。そのため、カリ長石を含まないトーナル岩源マイロナイトよりも、カリ長石を多量に含む花崗閃緑岩源マイロナイトの方が、白色のリボンの発達が著しい。

これらのリボンや伸長したプレッシャーシャドウは、細粒基質とともに縞状構造を形成する。この変形によって生じた縞状構造はフラクションバンディング(fluxion banding)呼ばれ、マイロナイト面構造を認定する主要な要素のひとつである.


暗褐色縞状部分(Lz)内部に発達する細い白色の細い筋をリボンと呼ぶ。
白色のリボンにはプレシャーシャドゥから連続するものと,独立して見えるものがある.
この白色のリボンと暗褐色の基質からなる縞状構造がフラクション・バンディングである。

面構造と線構造

ほとんどのマイロナイトには、肉眼で認められる、剪断帯の姿勢にやや斜交したマイロナイト面構造が発達している。マイロナイト面構造上には、運動方向を示す線構造が認められることが多い。

詳細は次ページに記載。

 

マイロナイトの分類

マイロナイトは、マイロナイト化の程度によりプロトマイロナイト(あるいはマイロニティック・・岩)、マイロナイト、ウルトラマイロナイトに分類される。その指標として、多結晶化した細粒基質の粒径によるものと、ポーフィロクラスト(多結晶細粒化をまぬがれた斑晶様の鉱物)と細粒基質の量比によるものとが提案されている。

※石英を含むマイロナイトの場合、基質構成鉱物の粒径は、多結晶化した石英プールまたはリボンで計測する。ただしプレーシャーシャドゥ(斑晶部分に尾を引き出したような見かけの部分)のポーフィロクラストに近い部位は除外する。その理由は、異種の鉱物が混在する部分では、異種の鉱物とりわけ板状鉱物の存在が再結晶作用による粒径の増加を阻害するため、相対的に粒径が小さい。一方、プレッシャーシャドゥでは剪断応力が弱いために粒径の減少が少ないため、相対的に粒径が大きいためである。

シュードタキライト

シュードタキライトは、ガラス質または極めて細粒の基質と、破砕された鉱物片からなる固結した断層岩。高い応力のもとで高速の断層運動が発生し、岩石の一部が溶融し急冷再固結して形成される。地震発生の直接の証拠として“地震の化石”と言われる。しかし、地震を伴う高速の剪断により必ずシュードタキライトが生じるわけではない。

地殻浅部から深部まで、いろいろな深度で形成されたシュードタキライトが知られている。浅部の断層沿いではシュードタキライトはカタクレーサイトに伴って産する。深部の剪断帯沿いではマイロナイトに伴って産する。マイロナイトに伴って産するシュードタキライトには再びウルトラマイロナイト化したものも知られていて、ふだんは低速の塑性変形をしているマイロナイト帯で、時々高速の地震性のすべりが発生していることを示している。

中央構造線沿いでは、三重県多気町の露頭の地質境界近傍のカタクレーサイト帯と、大鹿村の青木川沿いのマイロナイト帯とカタクレーサイト帯の境界付近(論文準備中)から、シュードタキライトが発見されている。


画像中央下部の黒色の帯が,シュードタキライト

断層岩類の分類案

(a)高木・小林(1996)による分類案

 

Crushing
粉砕
Fusion
融解
Recrystallization
再結晶
Random fabric or foliated
無構造な,または面構造の発達した
Foliated
面構造の発達した
Incohesive
固結していない
Cohesive固結している
Fault breccia
断層角れき
Fault gouge
断層ガウジ
Protocataclasite
プロトカタクレーサイト
Cataclasite
カタクレーサイト
Ultracataclasite
ウルトラカタクレーサイト
Pseudotachylyte
シュードタキライト
Protomylonite
プロトマイロナイト
Mylonite
マイロナイト
Ultramylonite
ウルトラマイロナイト

 

より細分化するときの分類基準

Name
岩石名
Proportion of visible fragments
粒径が肉眼で認定できる程度以上の大きさの破砕岩片の存在比
Grain size of fragment
破砕岩片の粒径
Fault breccia
断層角れき
>30% Megabreccia,>256mm
メガブレッチャー
Mesobreccia,10-256mm
Microbreccia,<10mm
マイクロブレッチャー
Fault gouge
断層ガウジ
<30% <10mm in general

 

Name
岩石名
Proportion of fragments
破砕岩片の存在比
Grain size of fragment
破砕岩片の粒径
Protocataclasite
プロトカタクレーサイト
>50% <10mm in general
Cataclasite
カタクレーサイト
>10-50%
Ultracataclasite
ウルトラカタクレーサイト
<10%

 

Name
岩石名
Proportion of porphyroclasts
ポーフィロクラストの量比
Grain size of matrix mineral
基質構成鉱物の粒径
Protomylonite
プロトマイロナイト
Variable depending on the lithology of protolith
原岩の岩質に依存し多様
>100μm
Mylonite
マイロナイト
20-100μm
Ultramylonite
ウルトラマイロナイト
<20μm

 

(b)嶋本ほか(1996)による分類案

 

Random fablic
無構造な
Foliated
面構造の発達した
Fine matrix
細粒基質の量比
INCOHESIVE
固結していない
Fault breccia
断層角れき
Foliated fault breccia
面状断層角れき
<70%
Fault gouge
断層ガウジ
Foliated fault gouge
面状断層ガウジ
>70%
Fusion Textures
融解組織
Pseudotachylyte
シュードタキライト
Foliated pseudotachylyte
面状シュードタキライト
COHESIVE
固結している
Cataclasite Seriese
カタクレーサイト系列
Cataclastic breccia
カタクラスティックブレッチャー
Foliated cataclastic breccia
面状カタクラスティックブレッチャー
0-10%
Protocataclasite
プロトカタクレーサイト
Foliated protocataclasite
面状プロトカタクレーサイト
10-50%
Cataclasite
カタクレーサイト
Foliated cataclasite
面状カタクレーサイト
50-90%
Ultracataclasite
ウルトラカタクレーサイト
Foliated ultracataclasite
面状ウルトラカタクレーサイト
90-100%
Mylonite Seriese
マイロナイト系列
? Protomylonite
プロトマイロナイト
10-50%
? Mylonite
マイロナイト
50-90%
? Ultramylonite
ウルトラマイロナイト
90-100%
Blastomylonite
ブラストマイロナイト
(Grain growth pronounced)
再結晶作用が進み,鉱物粒子の成長が著しい

※マイロナイト系列とカタクレーサイト系列の区別には、主要構成鉱物の少なくとも1種類が塑性変形(圧力溶解による変形は除く)をしていることをマイロナイトに含める基準とする。断層岩が変質していることを明記したい場合には、altered(変質した)、hydrothermally altered(熱水変質した) などを断層岩の名称の前につける。

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