剪断センスの判定
マイロナイト非対称微小構造のいろいろ
マイロナイトの剪断センスの判定はXZ面でおこなう。
マイロナイトXZ面上で観察される,剪断センスの判定に有用な非対称微小構造には、次のようなものがある(図1)。
図1,マイロナイト非対称微小構造(高木1993)
非対称プレッシャーシャドゥによる剪断センスの判定
図2,非対称プレッシャーシャドゥによる剪断センスの判定
非対称プレッシャーシャドゥは、シグマ(σ)タイプとデルタ(δ)タイプに分けられる。いずれのタイプでも、プレッシャーシャドウと細粒基質の境界と、面構造Smがなす角(∠β)に注目する。第1象限における∠βiと第3象限における∠βiiiが,第2象限における∠βiiと第4象限における∠βivよりも大きいときは左ずれ、逆に∠βiiと∠βivが∠βiと∠βiiiよりも大きいときは右ずれを示す。
シグマ(σ)タイプの例
N01ポーフィロクラスティック・マイロナイト(優黒部)
×10,下方ポーラー |
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デルタ(δ)タイプの例
N01ポーフィロクラスティック・マイロナイト(優白部)
×25,下方ポーラー |
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マイロナイト複合面構造による剪断センスの判定
図3,マイロナイト複合面構造
図3では、剪断帯の全体的な方向が横軸方向になるように描かれている。
【Model A】 S面のみを持つマイロナイト
マイロナイト面構造(S面またはSm面)は、仮想的な歪楕円体が剪断にともない引き伸ばされた姿としてイメージできる。S面は初生的には剪断面ではない。マイロナイト化が進行すると、S面と剪断の方向とがなす角αは小さくなる。
【Model B】 S面とC面が発達したマイロナイト
剪断の方向に平行に発達した剪断面をC面という。S面とC面が発達したマイロナイトは、S-Cマイロナイトと呼ばれる。次のS-Ssマイロナイトを含めて「S-Cマイロナイト」と呼ぶこともあるが、じっさいには、この狭義のS-Cマイロナイトは、あまり見られない。
【Model C】 S面とSs面(C’面)が発達したマイロナイト
S面またはC’面は、剪断の方向についてS面と反対回りに発達した剪断面で、シアバンド(Ss)と呼ばれる。通常、黒雲母や緑泥石などのフィロ珪酸塩の配列や、10μm前後の細粒な石英もしくは長石の集合体の配列によって規定される。左ずれの剪断センスの場合はS面に対し反時計回りに、右ずれセンスの場合はS面に対し時計回りに、20°~30°で斜交する。この関係から、剪断センスを判定できる。マイロナイトにおけるシアバンド(Ss)は、カタクラスティックな剪断の場合のリーデル剪断面(R)に相当する。
N01ポーフィロクラスティック・マイロナイト(優黒部)のシアバンド(Ss)
N11断層ガウジのリーデル剪断面(R)
【Model D】 S面に沿って生じた剪断面(Sc面)とSs面が発達したマイロナイト
マイロナイト化が強いところでは、S面と剪断帯の方向(C)との角度αは小さくなり、S面に沿ってすべりやすくなる。鹿塩と岸和田地域のマイロナイト帯においては、S面とSs面(シアバンド)がなす角(21°~23°)の2等分線が剪断帯の方向に一致することから、αが10°以下では、図4左下のベクトル図に示されるようにS面に沿ったすべりとSs面に沿ったすべりが補い合っていると考えられている(Takagi,1992,高木・小林1996)。
再結晶石英の長軸の方向の,Smに対する斜交性
図4,累進的な剪断作用によるSqの形成
マイロナイト中には、しばしばプール状やリボン状の再結晶石英集合体が見られる。比較的高温で低歪速度の条件で形成されたマイロナイトでは、これらの石英粒子は、Smに対して剪断帯の方向と反対側に斜交する方向(Sq)に長辺を向けて配列する。剪断により伸長・回転した結晶内に蓄積された歪みが、高温条件下で再結晶作用により解放されるとともに、多結晶集合体としてリセットされる。個々の結晶粒は、引き続く変形によって再び伸長・回転を繰り返す。こうして、動的再結晶を繰り返すほど、再結晶石英粒の長軸方向と剪断方向のなす角度は大きくなる。
N04ポーフィロクラスティック・マイロナイトの長軸方向に規定される面(Sq)はマイロナイト面構造(Sm)に対し時計回りに30度ほど斜交し,左ずれのセンスを示す.
S’面
マイロナイト化の強い試料で、剪断の方向に対してSs面と反対回りに斜交する面が見られることがある。ここでは、そのような面を“S’面”と仮称する。たとえば、ポーフィロクラストとプレッシャーシャドゥを合わせたレンズ状の部分の長軸方向や、図2のマイカフィッシュのへき開面の方向などがある。細粒基質中の微細再結晶黒雲母の長軸方向(Sb)も、この方向に配列している。上記のSqも、この方向の面である。
N06片麻岩源マイロナイトの白雲母マイカフィッシュのへき開面(S’)
N01ポーフィロクラスティック・マイロナイト(優白部)の細粒基質中の微細再結晶黒雲母の長軸方向(Sb)
S’面の形成には、2つの原因が考えられている(高木・小林1996)。
ひとつには、Ss面に沿ったすべりにより、シアバンドに挟まれた部分が剪断方向と逆向きに回転したために、S面と斜交するようになったと考えられる。
2番目には、Sqについて考えられる機構により、累進的な剪断作用が進んだステージにおける歪楕円体を近似していると考えられる。高い温度条件でマイロナイト化した、はんれい岩源マイロナイトやかんらん岩源マイロナイトの、細粒基質を構成する斜長石やかんらん石の、形態定向配列の長軸方向が示す面は、この例であると考えられる。
I04はんれい岩源マイロナイトの再結晶斜長石の長軸の伸びの方向(S’)
I05かんらん岩源マイロナイトの再結晶かんらん石の長軸の伸びの方向(S’)
Smを水平軸に平行に置いたときの見かけ(XZ写真撮影位置)
一方、肉眼レベルで試料から認定できるのは、マイロナイト面構造Sm(図1のXY面)である。Sm面は剪断の方向(C)とは斜交している。ホームページ中のXY薄片やチップの画像は、Smを水平軸に平行に置いている。通常は、これがふつうの観察位置である。図2と図3もSmを図の横軸方向に置いている。
一方、図4と図5では、全体的な剪断の方向(C)が図の横軸方向になるように描かれている。けれども剪断の方向(C)は試料を見ただけでは分からない。そこで、図4と図5の一部を、Sm面が水平軸に平行になるように置いたものが下の図である。図はすべて左ずれの剪断センスを示している。
図5,マイロナイト面構造Smと,シアバンドSs
図6,マイロナイト面構造Smと,シアバンドSsと,Smに斜交するS’
図7,マイロナイト面構造Smと,再結晶石英の形態定向配列Sq