鹿塩温泉のH2Oの長い旅路5:含水変成鉱物として深部に運ばれる水
海溝堆積物には、粒子の間に海水が含まれています。そのほとんどは、沈み込みと付加の過程で絞り出されると考えられています。しかしその一部は深部へ運びこまれていきます。
世界各地の沈み込み帯には、付加体の一部が深部へ引きずり込まれて、深さの割に低温で鉱物が変化した「低温高圧型変成岩」が露出しています。
鹿塩温泉は「三波川変成帯」に位置しています。三波川変成帯は、白亜紀後期の約8000万年前に当時の沈み込み帯の深さ15km~30kmで低温高圧型変成を受けた岩石が、その後に中央構造線沿いに上昇して地表に露出した変成帯です。温泉の前の塩川の河床や、すぐ上流の発電所付近の崖には、海溝堆積物の泥岩が低温高圧型変成を受けた「泥質片岩(黒色片岩)」が見られます。
泥質片岩の構成鉱物には、白雲母や緑泥石などの水酸基(OH)を持つ含水変成鉱物が含まれます。海溝堆積物に含まれていた海水起源のH2Oは、含水変成鉱物のOHとして深部へ持ち込まれていくと考えられます。
海洋地殻が付加した変質玄武岩も変成を受けて「緑色片岩」になっています。
緑色片岩には「緑泥石」「緑簾石」「緑閃石(アクチノ閃石)」などの含水変成鉱物が含まれています。
四国の三波川変成帯では、さらに深部で変成作用を受けた角閃石片岩が見られます。角閃石片岩の含水変成鉱物は角閃石です。
三波川変成帯の岩石が変成作用を受けたのは中生代白亜紀ですが、現在のフィリピン海プレートの沈み込み帯の、同じ温度と圧力の場所(深さ15km~30km、温度300℃~400℃では、同様の変成作用が生じているはずです。やはり変成鉱物の水酸基(OH)として、深部にH2Oが持ち込まれているのではないでしょうか。