大鹿村中央構造線博物館



鹿塩温泉のH2Oの長い旅路6:フィリピン海プレートからの脱水

プレート境界面の深さ

上の図は中央防災会議が採用した、フィリピン海プレートと西南日本側の大陸プレートとの境界面のモデルです。青い線が沈み込み口の南海トラフ軸。黒い線が等深線で、鹿塩温泉の下では35kmの深さにあります。

深部低周波地震

赤色の点は「深部低周波地震」の震源です。規模が小さい地震は常に発生していますが、ふつうはその揺れは地震計でなければ捉えられません。低周波地震というのは、揺れの周期が長い地震です。周期が数日以上というような極端に周期が長い地震はスロースリップと呼ばれ、地震計ではとらえられず、GNSS(GPS)基準点による地殻変動の観測でとらえられます。
この深部低周波地震は、フィリピン海プレートからの水の放出により、噛み合っているプレート境界面がゆっくり滑るためと考えられています。その位置はプレート境界面が30km~35kmの深さになっている領域です。

南海トラフから少し沈み込んだあたりから深さ30kmまでは、プレート境界面はがっちりと噛み合っていて、限界に達すると一気に滑り動いて巨大地震の震源断層になります。一方、黄色の線で示した深部低周波地震の発生域の深い側の境界線より深い側では、もはやプレート境界は噛み合っておらず、ずるずると滑っているとされます。したがって、黄色い線が、南海トラフ沿いの最大規模の地震の震源断層の深い側になります。震源断層面内のすべての場所から地震波が発生します。

変成作用にともなう脱水

変成作用とは、温度や圧力が高くなると固体のままで化学反応が生じる現象です。化学反応とは原子の移動です。鉱物を構成している原子が移動して、温度と圧力に応じた安定な鉱物に変化します。水酸基(OH)を含む含水鉱物は、高温高圧の環境では不安定になるので、変成が進むとともに水を含まない鉱物に変化し、余った水が放出されます。

深さ30km~35kmでフィリピン海プレートから水が放出されるメカニズムについては、今後の研究の進展を見ていきたいと思います。

ただし、この水がそのまま鹿塩温泉に上昇しているのではないと思います。鹿塩温泉の原水の同位体比が、フィリピン海プレートの上面が60km程度の有馬温泉の原水や、100kmより深い位置で造られるマグマに含まれる水の同位体比と同じだということは、もっと深い場所から上がっている可能性を示しているとおもいます。

では、海洋プレートから放出された水は、どのようにして深部へ運ばれるのでしょうか。

 

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