マグマのでき方2:沈み込み帯のマグマ
沈み込み帯の地下へ運ばれる水とマグマの発生
日本列島のような、海洋プレートが他のプレートの下に沈み込んでいる場所を「沈み込み帯」といいます。沈み込み帯では、沈み込み口の海溝と平行に、内陸側に火山帯が分布します。その地理的な分布は、プレートテクトニクスが明らかになるよりずっと前から知られていて「環太平洋火山帯」と呼ばれていました。
沈み込み帯は、冷たい海洋プレートが沈み込んでいる場所なので、火山帯の下のマントルも、海洋プレートとの境界付近では冷やされています。それなのにマグマができるなんて不思議ですね。
その理由は、沈み込んでいる海洋プレートが持ち込む水により、沈み込まれるプレートの下の温かいマントルの岩石が融けやすくなるためだと考えられています。
冷やされている海洋プレートとの境界付近を除き、地下深部ほど温度は高くなります。日本列島の地下100km~200kmでは地温は1400℃程度になっていると推定されています。その深さに相当する圧力のもとでは1400℃ではマントルの岩石は融けません。しかし、その圧力と温度の条件で水を加えると融点が約200度下がるという実験結果が得られています。この「融点降下」により、マントルの一部が融解し、玄武岩質のマグマが発生します。
この水を含んだ玄武岩質マグマが浮力で上昇し、地下20~30kmで固結し下部地殻ができます。しかし水を含んで融点が低いために、一部が再溶融して花崗岩質マグマが生じ、上昇して上部地殻を造っています。玄武岩質マグマと花崗岩質マグマが混ざると安山岩質マグマができます。
そのほか、沈み込む海洋プレートにより、大陸プレートの下のやや流動的なマントルが引きずり込まれ、そのすぐ上に反対向きの小規模な上昇流が生じます。そこで減圧融解が起こっていると考える研究者もいます。またマグマが上昇する道筋で、一部の成分が結晶になってマグマから取り除かれたり、地殻の一部を溶かしこんだりして、いろいろな成分のマグマが生じます。
沈み込み帯の火山帯の火山フロント
今の日本列島には、太平洋プレートとフィリピン海プレートという2枚の海洋プレートが沈み込んでいます。太平洋プレートが造っている火山帯を「東日本火山帯」、フィリピン海プレートが造っている火山帯を「西日本火山帯」といいます。
右の図は沈み込んでいる太平洋プレートの上面の深さと、東日本火山帯を表しています。太平洋プレートはロシアのハバロフスクの下では深さ660kmにあります。多くの火山は太平洋プレートの上面の深さが100km~250kmの真上に分布しています。しかし、深さ100kmの直上の線を境に、海溝側には火山はありません。火山の分布の海溝側の境界線を「火山フロント」といいます。
左の図は沈み込んでいるフィリピン海プレートの上面の深さと、西日本火山帯の関係です。中国地方の下のフィリピン海プレートの深さは良く分かっていませんが、中国山地に位置する火山フロントの北側に分布する山陰地方の火山の下では100km以上の深さに達していると考えられます。
火山フロントより海溝側に火山が分布しない理由は、次のように考えられています。
火山フロントより海溝側のマグマ水
沈み込んだ海洋プレートから放出された水は、深さ100kmより深い場所では融点降下によりマグマを発生させ、マグマに含まれて地表まで上昇します。沈み込み帯のマグマには数パーセントの水が含まれています。
深さ100kmより浅い場所で放出された水は、地温が充分に高くないためマグマを造ることができず、そのまま上昇し、その一部は地殻の弱線である断層などに沿って地表にまで達すると考えられます。
地下深部の水が、地震の発生場所や時期、地殻変動などに関わることが予想されることから、2009年~2014年に文部科学省の重点研究の対象になり、全国規模で試料採取と解析が行われました。その結果、天水で薄まってはいますが、鹿塩や有馬タイプのH2Oが地表近くまで上昇している地点が西南日本にたくさん見つかりました。とくに中央構造線と有馬‐高槻構造線沿いに多く分布しています。
また日本列島の火山帯が、太平洋プレートとフィリピン海プレートが地下深部に持ち込む水によって造られていることも確定したと思います。
これにより、鹿塩や有馬タイプのH2Oがマグマ水と同じ酸素と水素の同位体比を示している謎も解決したと思います。鹿塩温泉のH2Oが、フィリピン海プレートが西南日本の下に持ち込んだH2Oであることは確かです。
しかし、それは海水のH2Oとは同位体比が異なり、海水そのものではありません。
フィリピン海プレートに、いつどこでどのように取り込まれ、どのように沈み込み帯の深部に運ばれ、どのように放出されたのでしょうか。
水の長い旅路をたどれば、溶け込んでいる成分の出入りも見えてくるかもしれません。