鹿塩温泉のナトリウムイオンと塩化物イオンはどこから来たか
大鹿村中央構造線博物館には、なぜ鹿塩温泉は「塩」を含むのかという取材がたくさん来ます。
水については分かりました!と説明するのですが、たいてい放送されません。
沈み込んだフィリピン海プレートから出てきた水です!と言っても、
「じゃあもともと海水なんですね」と言う答えを期待されますが、そうではなく鉱物中の水酸基で・・・というところで、まあ、いいやになってしまいます。
みんな、H2Oの由来ではなく、溶け込んでいる成分について知りたいんですよね。
でも、鹿塩温泉H2Oの長い旅路を追わないと、成分の出入りも分からないと思います。
入る方だけでなく、出る方も考える必要があります。有馬温泉は高温で、多量のカルシウムを含んでいます。塩化物イオンも鹿塩より多く、おそらく鉄イオンも多いと思います。たぶん鹿塩温泉の原水も、もっと深部では有馬と同じような成分を溶かしていたのではないでしょうか。
高温なのは、有馬‐高槻構造線に沿って高速で上昇しているからです。
鹿塩は低温なので、ゆっくり上がってきたのでしょう。ゆっくり上がってきたために、途中でカルシウムイオンが取り除かれて、さらさらの食塩泉になったのではないか。その絶妙なスピードが、古代から食塩水として利用できる温泉をもたらしたと思います。
ナトリウムイオンについえは、箱根温泉の食塩泉が、高温の熱水と、マグマの岩石起源の成分であるナトリウムの反応でできると考えられていることから、鹿塩温泉のもとの深部の熱水と岩石の反応で溶け込んだ可能性が高いと思います。
問題は塩化物イオンです。海洋玄武岩の火山ガラスに含まれる流体包有物のほとんどは水と炭酸ガスですが、塩素の含有も報告されています。そうすると、塩化物イオンについては海水起源の可能性があるかもしれません。いろいろな研究成果に注目していきたいと思います。