大鹿村中央構造線博物館



旧高森山林道観察ルートの断層岩の特徴

マイロナイト

高遠~大鹿地域では、領家帯の変成岩や花崗岩類には、中央構造線から1500m付近からマイロナイト化が見られ、中央構造線に近づくにつれ変形が強くなっている。
 マイロナイトという岩石は、その原岩が地温が高い深部にあったときに、焼きなまされつつ、ゆっくりと塑性変形して形成された断層岩である。高温塑性変形は、変形をになう主要造岩鉱物の、剪断応力下における再結晶(動的再結晶)による多結晶細粒化で特徴づけられる。
つまり、マイロナイトは、一般には緑色片岩相以上の温度条件において、剪断帯における強い剪断応力下で、一部の鉱物が粒径を減じながら再結晶しつつ変形した、特殊な変成岩であるとも言える。
再結晶が卓越し始める温度は、鉱物種により異なる。上部地殻深部の深さ10~15kmの、300~350℃の温度(緑色片岩相)では、おもに石英が多結晶細粒化して変形をになっている。

この温度条件では、マイロナイト化が強くなるとともに、黒雲母や一部の長石も細粒化している。しかし、角閃石や一部の長石は、細粒化をまぬがれ、もとの結晶のまま残存している。
原岩が、構成鉱物の粒径が大きい花崗岩質岩の場合、角閃石や一部の長石が再結晶をまぬがれて残存する。ただし、長石の場合は、結晶の外縁が「食われ」て丸みを帯びていることが多い。このような、細粒基質中に残存する、相対的に粒径が大きい原岩起源の結晶をポーフィロクラストといい、ポーフィロクラストが目立つマイロナイトを「斑状マイロナイト(ポーフィロクラスティック・マイロナイト)」という。

なお、このようなポーフィロクラストと細粒基質の対比が明瞭なマイロナイトについて、日本地質学会編『日本地方地質誌4中部地方』朝倉書店(2006)で統一された表記法にしたがい、「斑状マイロナイト」と記す。

マイロナイト化の認定は、高木・小林(1996)の再結晶鉱物の粒径によるものと、嶋本ほか(1996)の細粒化をまぬがれたポーフィロクラストと細粒基質の量比によるものがある。
⇒断層岩の分類

マイロナイト化の程度による区分

高森山林道ルートでは原岩が多様なために、原岩の構成鉱物の粒径と鉱物比に影響される、ポーフィロクラストの量比にもとづく方法は用いることができない。そこで、ここでは再結晶石英の粒径による区分を用いた。粒径の測定には、平均粒径による方法と、最大粒径による方法があるが、測定が容易な最大粒径により、次の表のように区分した。
なお、再結晶石英粒径の測定は、石英結晶のみからなる石英プールの部分でおこなう。一般に、雲母類や長石類と混在する部分では、石英のみからなる部分よりも、再結晶石英の粒径は小さい。

マイロナイト化の区分 再結晶石英
の最大粒径
その他の特徴
マイロナイト化した原岩 0.50mm以上 一部の石英に,動的再結晶による
多結晶細粒化が見られる
プロトマイロナイト 0.50mm~0.25mm ほぼすべての石英に,動的再結晶
による多結晶細粒化が見られる
マイロナイト 0.25mm~0.10mm 黒雲母もすべて細粒化している
ウルトラマイロナイト 0.10mm以下

 

カタクレーサイト

中央構造線から250m付近から中央構造線にかけて、マイロナイトが浅部へ上昇後、高温塑性変形が生じない地温で再び剪断を受け、破砕されたのち再固結したカタクレーサイトになっている。
⇒断層岩の分類

花崗岩類を原岩とするマイロナイトが破砕されたカタクレーサイトの場合、その破砕岩片には角閃石や長石のポーフィロクラストと細粒基質からなる斑状マイロナイトの組織が肉眼でも認められる。

しかしもともと細粒の変成岩から形成されたマイロナイトを原岩とするカタクレーサイトの場合は、原岩がマイロナイトであるかどうかの判定は肉眼では困難である。
一部のカタクレーサイトについては、その原岩やマイロナイト化の履歴について未解明であり、今後の課題である。

マイロナイト面構造と剪断のセンス


⇒マイロナイト面構造と線構造

高森山林道ルートでは、マイロナイト面構造はおおむね垂直であり、線構造はほぼ水平である。すなわち露岩を真上から見たときに、上面にXZ面が観察される。
XZ面内の非対称構造から判読されるマイロナイトの剪断のセンスは左ずれである。ただし、現在のマイロナイト面構造は、白亜紀末と推定されるマイロナイト形成時の姿勢から、その後の構造運動により回転しているかもしれない。したがって、現在のマイロナイトの剪断センスだけからは、マイロナイト形成時の剪断が左横ずれ断層運動であったとは、必ずしも言えない。

 

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